▼プロローグ
AIによる営業電話は2025年くらいから急速に普及し始めた、そうである。生成AI普及、さらには音声合成技術の進化に伴い、疲れ知らずのAIによる24時間電話が可能になったと言う。まあもっとも深夜2時とかにかかってくる営業電話は単に迷惑でしかないので、そのあたりの時間調整はしてるんだろう。深夜2時にやっていいのは望遠鏡を担いでからの天体観測ぐらいである。オーイエー、アハーン♪である。
……今月かかってきたAI電話はへっぽこ技術だったことを思い出す。
あと1分で昼休みというところで着信音。電話番号頭は「050」。弊社にかかってくるIP電話はろくでもない電話であることがほとんど、さて今回は?、と身構えて電話に出る。
「はい、和気相互建設有限会社でございます」
このわたしの応答に対して明らかなタイムラグがある。
「お世話になっております。わたくし◯◯◯◯の▲▲と申します。社長様にお繋ぎいただけますか?」
話しているのは女性だが、「ノープレッシャーの環境で録音された音声」臭さ、言い換えれば「ライブ感の欠如」が半端ない。
「いきなり要件もなく社長につなぐことはできませんので、まずはご要件をお聞かせいただけませんか?」
タイムラグ。
「はい、私ども業務提携を主に行っておりまして、」うんぬんかんぬん……
何の業務提携なのかさっぱりわからない。しかし「相手」はひたすら話し続ける。
「この度業務のマッチングということでご提案をさせていただきたく存じまして、」うんぬんかんぬん……
止みそうにない台本朗読。しょうがないので「相手」が話し終わるのを待つ。
「ですので、社長様にお繋ぎいただけませんか」
「できません。営業でしたら他を当たってください。では切らせていただきます」
「では」と「切らせて」の間くらいで電話が切れた。
直後に相手先の電話番号をネットで検索する。
こんな録音を「業務」として行わざるを得なかった女の子の悲哀に若干思いを馳せる。嗚呼。
業務提携の中身がまったくわからないのは台本作成者の国語力/文章力が欠如しているからだろうか。そんな人たちがおそらく相手の発言の種別をカテゴライズして作り上げたであろう膨大なフローチャート。なんたる不毛さ。
▼営業って
営業という仕事について、絶対に否定はしない。会社の売上が上がらなかったらおまんま食い上げである。相手のニーズに適切に対応できるソリューションを提案するというのは、本当に大変な仕事なのだと思う。
しかしそこには「対話」があってしかるべきなのだ。一般的な電話営業ならまだしも、こんなふうに台本を一方的に読み上げるような「営業」は、営業と呼ぶに値しない。ただの迷惑でしかない。そこに対話は存在しない。
そして思う。
「AI営業電話でもいいけど、そこには『ギャル』が実装されるべきなのだ」と。
▼そもそも「対話」とはなにか
まずは辞書的な意味から。
たい‐わ【対話】
[名](スル)向かい合って話し合うこと。また、その話。
「市長が住民と対話する」
電話により二者が話し合うことは、辞書的に正しい言葉は「通話」なのだろうけど、本稿ではそれも「対話」ということにする。
先に触れたへっぽこAI営業電話で言えば、
*台本を一方的に読むだけ*こちらのリアクションに対する明らかに不自然な間、ライブ感の欠如*そもそも相手の「人格」が見えない
こんなのは「対話」じゃないのだ。
翻って、「対話」とは「ダイアローグ」であるべきなのだ。言葉と言葉が双方で行き交い、共感をもってコミュニケーションを図る行為。こちらが質問をすれば、相手はそれに応えて適切な言葉を返す。それが本質のはずなのだ。
その意味で言えば、このAI電話は「モノローグ=独白」のたれ流しであって、断じて「ダイアローグ」とは呼べない。ぼくらはそんな一方的コミュニケーションをしたいわけじゃない。お粗末なAIシステムによる営業電話は、こちらの時間を削るだけであって、コミュニケーション不全に起因して受け手側の不快感だけが一方的に増大していくだけだ。
▼君はギャルの営業電話を受けたことがあるか
以前、「ギャル」からの営業電話を受けたことがある。そう、茶髪細眉ガングロにネイル長すぎの、あの「ギャル」である。
もちろん電話だから姿が見えたわけではない。しかし舌足らずな、決してビジネスの色に染まりきっていないその語り口は明らかに「ギャル」なのだとわたしに確信させるものがあった。
「お世話になっております。■■■■の□□と申します。」
ここでわたしには「お世話になっております」の言葉がこう聞こえた。
「おしぇわになっておりましゅ」
ああ、ギャルだ。これはまごうことなきG・A・Lだ。ビジネス電話のワードがちっとも口に馴染んでねえ。
「えーとぉー、インターネットサイト構築の件で、社長さんにお繋ぎいただきたいのですが~?」
おお、おう。
「弊社はお客様のホームページ作成代行をしている会社なんですけどー、えーと、そのあたり弊社で請け負わせていただくことができないかと思って・、社長さんをお願いできたら~と思って~」
おお、頑張るなあ。
「ごめんなさいね、うち公共工事がメインで民間工事ってあんまりやってないから、ホームページの充実ってのはそんなに重要案件じゃないんです」
「そうなんですかぁ~」
この娘マジ面白えなあww
「あ、でも君が誠実に、むちゃくちゃ頑張ってるのだけは伝わってきて、応援したい気持ちにはなったから、これにヘコむことなく別の会社に提案してあげてくださいね」
「はい、ありがとうございました~」
「では失礼します」
「はい、失礼します」
不思議と不快感はない。むしろすがすがしい。
▼「ギャル」はメディアである
カナダの批評家、マーシャル・マクルーハンは「メディアはメッセージである」という言葉によって、情報を伝える「内容」よりも、テレビや活字といった「メディアの形態そのもの」が人間の意識や社会を規定する、と説いた。この論法で言えば「ギャル」もまたメディア足りうる存在であると考えることができる。
ギャルの定義的に、ガングロ、細眉、茶髪、長すぎるネイルといった見た目の情報のみが語られやすいのが常ではある。しかし「メディア」としてのギャルを想起した場合、その様相は一変することに気づかされる。
ギャルは相手の話を受け止めるのである。
ギャルは受け入れられない他者に対しては「キモイ」としかリアクションできない。しかしいったん受け入れた他者であれば、その意図を理解し、共感する態度でリアクションを行うようになる。その高いコミュニケーション能力こそ、「メディア」としてのギャルの本質である。
先述のギャルからの営業電話にわたしがすがすがしさを覚えた理由は、彼女が必死にコミュニケートしようとする意欲をもち、こちら側に誠実に向かい合おうとしていたことが電話越しでも伝わってきたからだ。それが人間とのダイアローグの本質でなかったら何なのか。
だからこそ思う。重要なことは何回だって言う。
AI営業電話にはギャルを実装すべきなのである。
▼ユーザーエクスペリエンスとしてのギャルの優位性
ギャルAI営業電話のメリットは、前述の「共感に基づくコミュニケーション」に留まらない。というのは、AI営業電話の最大の弱点「レイテンシ」、すなわち「反応の遅れ」を克服できるはずだからなのである。
そもそもAI営業電話のレイテンシは何故発生するのか。それは基本的にAI営業電話がこちら側の発話に対して音声認識→テキスト生成→音声再生の3つの段階を踏まなければならないという仕様に由来している。そのことが不可避的、なおかつ致命的な反応の遅れを生み出してしまい、受話器の向こう側で「使えねえポンコツAI電話だな」という否定的な感情を生み出してしまうのだ。
しかしギャルAI営業電話であればこの間をあたかも「無」にすることが可能だ。ギャルにはギャル特有の、ギャルしか持ちえない「伝家の宝刀」があるからだ。
「え~、マジっすか~」「ヤバ!! え~それヤバくないですか~」「え~、それチョー受けるんですけど~」
通常のAI営業電話がレイテンシを発生させざるを得ないタイミングで上記の切り返し文言を間投詞のように挟み込むことで、会話にあるはずの不自然な空白が、ギャルの自然なリアクションへと美しく昇華される。一般のAI営業電話がビジネスの現場にスマートにフィットさせるべく開発されているからこそ絶対に搭載されないボキャブラリーが、ギャルAI営業電話であれば「ギャルだから」の理由ですべて可能になり、電話の受け手も「まあ、ギャルだし」と許容できるのだ。これぞコロンブスの卵、AI電話開発のコペルニクス的転回である。
▼「ロボット工学三原則」とギャルAI営業電話
かつてイギリスのSF作家、アイザック・アシモフは自らの作品『われはロボット』の中で「ロボット工学三原則」を提唱した。もともとはSF小説の中の言葉ではあったこの原則は、しかし現在でもロボット工学に影響を与え、引き継がれている。曰く、
アイザック・アシモフ「ロボット工学三原則」
Isaac Asimov's Three Laws of Robotics
第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
First Law: A robot may not injure a human being or, through inaction, allow a human being to come to harm.第2条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、その命令が第一条に反する場合はこの限りではない。
Second Law: A robot must obey the orders given it by human beings except where such orders would conflict with the First Law.第3条 ロボットは、前掲の第一条および第二条に反しない限り、自己の存在を守らなければならない。
Third Law: A robot must protect its own existence as long as such protection does not conflict with the First Law or Second Law.
この原則、一般的なAI営業電話には悲しいかな、引き継がれていない原則である。これがこんにちのAI開発で有効性を持っているならば、たとえば最初に挙げたわたしのAI営業電話体験談のように「人の昼飯の時間を削ると想定される時間帯での営業電話」はそもそも完全アウトである。わたしのお昼ごはんタイムを1秒でも短くする行為は万死に値するのである。
加えて、AI営業電話が不毛な行為であり、無為な電力の消費である。このことが環境破壊をもたらす遠因となりうるゆえ、第2条をタテに雇用主が営業電話を命じたところで、その命令が第1条を侵害するのであれば、AI営業電話はその命令を拒まなければならないのである。
上記のさまざまな要素を考えた結果として、わたしはここに「AI営業電話四原則」を提唱する次第である。皆のもの、よいかな。
世界を救うのは愛ではない。ギャルだ。
ギャルが世界を救うのだ。


















