はい、みなさん暑い中よくお越しくださいました。本学で数理統計などを研究しております、実丹丸幕郎(みにまる・まくろう)と申します。今回は本学の公開講座として、「土木施工管理技術検定」の1級1次試験対策を行っていきたいと思います。短い間ではありますが、最後までお付き合いください。
さて、わたくしは数理統計の専門家ではありまして、土木施工管理の専門家ではありません。従いまして、この講座において
「コンクリートの打設」だとか「軟弱地盤の対策工法」などの試験に出そうなあれこれの解説は一切できません。門外漢です。そのような対策講座がご入用でしたら、それはここじゃなくて、日建学院さんであるとか、総合資格学院さんであるとか、TACさんなんかの資格予備校に行ってください。
「じゃあお前が話す試験対策って何だよ」ってお思いの方、すでにたくさんいらっしゃると思います。わたしがこれから話すのは、過去の1次試験問題の正答選択肢の分布状況を統計的に処理して、最終的に「当該問題の解答が分からないときにどう立ち回るのがベストなのか」ということになります。つまりは、まったく解答が分からない問題であってもその場その場の解答状況から次の問題の正解を何となくでもいいから当りをつけてみよう、そんな邪道的な攻略方法ですね。だから「裏・攻略法」なんですよね。
さてさて、前置きが長くなるのもよろしくありませんので、早速始めることにしましょう。ひとまず今日の解説内容一覧のスライドです。
【筆者注:スライド画像はクリックで拡大します。最後にスライドのリンクも示すので併せてご参照ください】
▼本日の講義内容
まずは土木セコカンのどの問題を分析したのかを紹介して、単純な
正答選択肢の分布状況を見ていきます。そのあとで
「正解選択肢が連続する場合が過去どれくらいあったか」や
「特定の選択肢が正解になっていない『空白地帯』は過去どのくらいのものがあったのか」を示します。そして、
「1番が解答だったときの次の問題の正解」は何番が多いのかをデータとして示し、それについて
作為的な傾向は存在するか、存在するとすればそれはどのような傾向として過去現れていたのかを紹介します。
そしてここまでの議論を踏まえて、最後に「解答がまったく分からないときにどう立ち回るべきか」のディシジョンツリー、簡単な物言いで言えば「マルバツ占い」みたいなものを本講義の「結論」としてご紹介、というのが今回の講義の流れです。最後の結論を早く皆さん聞きたいと思いますが、まあさすがにそれだと何のための講義なのかよくわからなくなってしまいますので、順番に講義を聞いてくださいね。
▼分析対象
分析対象、前提となるデータですが、土木施工管理技術検定1級1次試験の平成24年から令和8年までの全1455問を用いています。実はこの集計をしている最中にあと3年分くらい母集団のデータは増やせそうだったのですが、この1455問ってのが分析する分量としては十分に大きくて、これ以上対象増やしてもあんまり意味がないんで割愛しました。で、この正解の選択肢をひたすらExcelに入力し、そのファイルをGoogle NotebookLMやChatGPTに読み込ませて分析を行っています。
それからお断りなのですが、土木セコカンの1級1次試験って、近年はA問題の冒頭に「工学的基礎」の問題、またB問題のラストには「施工管理の応用能力」の問題が出題されるようになったのはご存じかと思います。ただ、現時点でこれはまだ分析に足る水準の問題数が揃っておりませんので、これらの問題に特化した解説というのはちょっとムズカシイということをご了承ください。
あと、A問題は選択問題、B問題は全問題必須回答と、解答方法が若干異なることも皆さんご存じでしょう。必要に応じて「A問題・B問題総合」と「B問題のみ」で分けてデータを示すことがありますが、これはこの出題形式に起因していますので、最初に申し上げておきます。
ということで前置きはここまでです。次のスライドから分析に入っていきますね。
▼正答選択肢の偏り
まずはA問題・B問題を総合的に見た正答選択肢の分布状況です。見ていただければ一目瞭然ですが、だいたい25%ずつってなっています。まあこのスライドはこれ以上語ることもないので次行きましょう。スライド、どん!
B問題に限定するならわずかに①が少なくてその分②とか④が多い、みたいな傾向があります。とはいえ、「困ったら④!」と言えるほどの傾向がみられるわけではありません。この段階では出題者が何か手心を加えているとは言えませんね。まあ頭の片隅に置いておく、くらいの扱いでいいと思います。
なお、今回スライドでは紹介しませんが、年度ごとの正答選択肢分布状況について言及しますと、ほとんどの年がだいたい均等になっています。正解選択肢の数とは最大値は26となっています。以前は総問題数が96問、現在は101問ですから、やはり分散の具合としては均等に、平たくなっているというのが結論ですね。
では次です。スライド、どん!
▼連続出現の分析
まずはこのスライドご覧ください。
前置き知識として
「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」について解説します。
わかりやすい例として、カジノのルーレットで赤が5連続で出たという事態が起きたとします。で、それを踏まえてのディーラーの次の1投。このとき皆さんはこんなことを思うだろうと思うんですよね。
*5連続で赤だったら次はもうさすがに黒が来るだろ!→黒にベット
*この連続した流れはまだ途切れない。次も赤に違いない→赤にベット
これ、どちらも「認知バイアス」の影響を受けて正常な判断ができなくなっている状況です。これを「ギャンブラーの誤謬」って言います。ちなみに1913年のモンテカルロのカジノでは26回黒が連続で来たという伝説が残っておりまして、この場に出くわした不幸なギャンブラーさんは一晩で大金を失ったそうです。いや、酷い話ですね。
賢明な皆さんならお分かりかと思いますが、ルーレットの出目、すなわち玉が次にどこに入るかってのはよっぽどの凄腕、なおかつ性格の悪いディーラーでない限りは確率は均等なはずです。次の出目は、直前までの出目の影響を全く受けないはずです。
ちなみにわたしならこの場合どっちに賭けるか。答えは「適当」に好きな方に賭けます。そもそもこんなのが予測できたらわたしの左腕にはApple Watchじゃなくて金無垢のロレックスデイトナ
(参考リンク→こちら)が光っていますよ。ね?
ただ、今回相手にしているのは土木セコカンの試験問題です。確率は均等じゃない可能性はあります。
では次に「同一解答は何連続で続くのか?」のデータを見ていきましょう。次のスライドです。どん!
過去の試験で、同じ正答が連続するケースがどれくらいあったのか。最大値は5連続という記録が残っています。ただしこれはA問題の選択問題の話で、全問題必答のB問題だと4連続が最大となっています。ちなみにこれはどちらも平成24年試験で見られた事例ですが、こんなに同じ選択肢が正解になるのは受検していたらとても不安になりますよね。ということで、これ以降の試験では最大で3連続に抑えられているというのが現状です。3連続で同じ選択肢が正解になったらさすがに次は変えろよ!という出題者からの無言のメッセージなのかもしれませんね。
なお、5連続のケースがあったのはA問題って話をしましたけど、これが含まれていたのは34問中10問を選択する専門土木の問題でした。運よく?運悪く?34問の中からこの5問を選択する確率は、単純計算ですと、
となります。この年の受検者総数が28,932人だったそうなので、期待値としては26人くらいがこの5問を選択したわけですね。いや、本当に運がいいのか悪いのかよくわからない話ですけれど。
で、上の表に戻りますと、2連続までは毎年当たり前のように出現しているわけですけど、3連続となるとぐっと度数が減ります。ここに注目しておきましょう。じゃあ次のスライド。どん!
▼空白地帯の分析
マークシートの試験ですと、長い間、正答選択肢にならない数字ってのがたまに出現します。ここではこれを「空白地帯」と呼ぶことにします。あれとても心臓に悪いんですよね。そもそもがマークシートで解答の状況は「あれ、1番全然正解になってないの?」みたいに嫌でも目に入ってくるわけですし、それこそ先ほどの「ギャンブラーの誤謬」っぽく「こんなに1番が来ていないんなら、もうそろそろ1番来ないか?」と思って1番を吟味するんだけど、やっぱり1番は正解じゃないじゃん、めちゃくちゃ怖い……っていう「1番を選ばないチキンレース」をした経験は皆さんもあるんじゃないかなと思います。
4肢択一試験であれば、空白地帯の期待値はもちろん3に収束していきます。しかし、そんな受検者心理をあざ笑うかのようにふざけたレベルで長大な空白地帯が毎年のように生じているのが事実なのです。まずは最長記録を確認してみましょう。どん!
A問題の18問という記録がひときわ目を引きます。もちろん選択問題のなかでの話なので、実際に被害を被った、というか出目の法則にドギマギした方ってのはそこまで多くないとは思いますが、それでも4肢択一でのこの数字は驚異であり恐怖です。
全問題必答のB問題だと13問の空白地帯が最長です。しかし考えてみればB問題は35問しか問題がないので、こんなに長い空白が生じるのも、受検者としては相当にイヤな心理状態に陥りますね。しかもここまでじゃないにせよ、さっきも申し上げました通りこの種の空白地帯は毎年生じているのが事実なのです。
念のため、年度別の最長空白地帯データも示しておきましょう。どーん!
もうこれを見ると、「空白地帯」ってのは毎年どこかで起きるものである、という心構えが必要なんだ、ってわかりますよね。これだけでも皆さん、今日来ていただいた意味があろうかというものです(笑)。ということで次の話題に移ります。スライド、どん!
▼遷移マトリックス
さあ、この講義も佳境に入ってきました。
「前の正解が1番だったとき、次の問題は何番が正解になりやすいのか」というお話です。前の問題から次の問題の「うつりかわり」の全体像を示すところになりますので、ちょっと難しいですけど「遷移マトリックス」という表現を使っています。
人によっては「そんなのオカルトじゃんか」って言うかもしれません。しかし統計学の力を借りることで、それが本当にオカルトなのかということを科学的に分析できるようになります。このあたりから私の専門である統計学をベースに話をしていくことになりますが、できるだけかみ砕いて説明しますので付いてきてください。では早速ですが、実際にはどんな感じなのか、データを見てみましょう。スライドー、どん!
いずれの表も少ないところは赤い色アミ、多いところは青い色アミで表示しています。もうこれ皆さんすぐわかると思いますが、「2問連続で1が正解」みたいに連続して同じ選択肢が正答となるケースってのは目に見えて少ないんですよね。B問題で1番の次が1番ってケースは15年間のデータでもわずかに9回。一桁しかないくらいのレアケースだっていうのが分かると思います。
反対に青いパターンで示したところは回数が多かったところです。「1番が正解だった問題の次の問題の正解」ってやっぱり確率としては25%のあたりに収束しそうなものですけれど、実際は同じ選択肢が回答になるケースが少ないため、他の選択肢が正解になるケースが多くなっています。とくに1番が正解だったとき、次の問題の正解が3番になるケースは全体の3分の1を超えてるんですよね。
さて、こうやって「遷移の全体像」を皆さんにお見せしました。ただしこれだけだったら単なるアンケートの集計結果と変わりありません。統計学は一味違うんだよということを皆さんにお見せするために、「この結果は自然にばらけた結果なのか、それとも人為的に何か作為が加えられた結果なのか」という観点について、次に検証していきます。スライド、どーん!
▼χ2検定と調整済み残差
スライドの小項目のところ、「エックスの2じょう」じゃなくて「カイじじょう」って読みます。「カイじじょうけんてい」という統計学の道具でもって、検証していきます。
じゃあこのカイ2乗検定って何をやるの?という話なんですけど、スライドにもある通り、別名を「独立性の検定」と言います。「独立性」って何のことかと言いますと、たとえ話として女性アイドルの人気ランキングの話で考えてみましょう。
全国の若者を対象に、「好きな女性アイドルは誰ですか?」というアンケートを取ったとします。すると、たくさんの票を集めたアイドルから順番にランキングができます。昔のAKB選抜総選挙をイメージしてもらえば分かりやすいですね。
さて、このアンケート結果を全国だけではなく、都道府県ごとにも集計できたとします。
すると、A県では全国とほぼ同じような票の入り方をしている一方で、B県だけはある特定のアイドルの票がやたら多い、といったことが起こるかもしれません。その背景として、そのアイドルがB県各地の商店街イベントに引っ張りだこだったり、方言丸出しのローカルタレントとして地元のテレビ局でレギュラー番組を持ってて「B県の妹」みたいに持ち上げられてた、なんてことも考えられます。
このとき私たちが知りたいのは、「この違いは、たまたま偶然起こっただけなのか。それとも、本当にB県という地域が影響しているのか」ということです。まあもちろんローカルタレントで大人気だったら明らかに地域の影響ってあるとは思いますが、それを統計学は「カイ二乗検定」というツールを使って科学的に分析を行うんだよ!というわけです。
で、この分析によって都道府県ごとのアイドルの得票数の関係を統計的に調べます。そうして、「地域によって票の入り方が違うと言えそうだ」という結論が得られれば、「都道府県とアイドルの人気は独立ではない」、つまり地域性がある、と判断するわけです。
たとえ話が逆にわかりにくかったらごめんなさい。要は、「違う」ということを調べるんじゃなくて、「その違いが偶然では説明できないくらい大きいか」を調べる。そう理解しておいてください。
ということで、土木セコカン1級1次の正解選択肢遷移、こんな結果が出ています。どーん!
スライド真ん中の数字がある部分はもういいです。重要なのは結論のところ。
「帰無仮説は棄却。遷移は純粋に独立しているとは言えない」 これです。もっとかみ砕いて言うならば、正解選択肢の並びは偶然っぽく見えるけど、偶然じゃない、ってことです。
どうでしょう、みなさんゾクゾクしてきませんか?私は統計学者なのでゾクゾクします。まあさっさと次のスライドに行きますね。あ、この辺の話を深堀りしたい方はぜひ統計学の入門書(参考リンク→こちら)を読んでみてくださいね。今回はこれは本題じゃないんで割愛します。はい、じゃあ次のスライド、どーん!
「クラメールのV」という観点でも検証を行いました。さっきのカイ二乗検定で「偏りがある」と分かったけど、じゃあその偏りは強いの?弱いの?というのを数字で明らかにします。
でこれも数字の結果とかはまあいいです。結論としては「偏りはあるけど、強くはないよ」ってことです。さっきのアイドルの話に置き換えれば「偏りはある。でも『B県なら必ずこのアイドルが人気』と言えるほど強い傾向ではない。」みたいになります。
ということで、全体的な偏り具合の強さについて検証してきたわけですが、1級土木セコカンの正答選択肢遷移について、じゃあピンポイントでどこが偏ってるの?というのが今回の遷移の分析の最終章になります。それがこちらです。どーん!
かなり興味深い表が出来上がりました。同じ正答選択肢を続ける可能性というのは統計学の見方をしても、やっぱり少ないんだということが言えますし、1が正解だったとき、次の問題の正解が3になる傾向はすべてのパターンのなかで一番有力、みたいなデータを得ることができました。
さて、ここまでで「分析」がすべて終わりました。
ということで、今までの議論を思い出してください。
正解選択肢の分布状況、同じ正答が続いたパターンの実数、空白地帯、そしてこの遷移分析。それぞれどんな結論が得られたか、うっすらでもいいので思い出していただければと思います。
ではお集まりいただいた皆さんお待ちかねの時間です。今までの議論をすべて反映させた「解答が分からないときの立ち回り方」をまとめたディシジョンツリー。
これが完成版です。どーん!!!
▼土木施工管理技術検定1級1次、次の問題が分からないときのディシジョンツリー(完成版)
えーっと、スライドを今必死にノートに書き写している方とか、スマホのカメラで撮影しようとしている方は手を止めてください。今回集まっていただいた皆さんのためにプリント
(PDF版→こちら)でこれからお配りしますので、それを持って帰って、これからの試験勉強に生かしてくださいね。
ということで、最後になりましたが、今日のまとめです。
▼今日のまとめ
今回お配りしたプリントは統計学の知見を存分に発揮した最強のディシジョンツリーです。しかし天気予報がよく外れるように、今回のディシジョンツリーもまた絶対ではありません。使用したい方は止めません。しかし使用はあくまで自己責任でお願いしたいところです。わたしの講義のせいで落ちたとか言われても、わたしは「知らんがな」としか言いようがないんです。なぜならこうやって何度も「自己責任」って言ってますしね。
で、本当の意味での最強の試験攻略法。さっきのディシジョンツリーの先頭を見直して下さい。「正答が分かるか?」って書いてありますよね。そう、正解が分かるのであれば、こんなディシジョンツリーに頼る必要なんてないんです。だからスライドの文字をここで読み上げて、わたしの講義をお開きにしたいと思います。
勉強、これこそが最強の攻略法である。
以上!

【教務課から】
今回の講義スライドはこちらのリンクからご覧になれますので、お時間ある方は読んでいただけますと教授(の中の人)が大変喜びます。どうぞこちらも併せてお楽しみください。
スライドにもありますが、教授(の中の人)は受験者20万人を誇る宅建試験分析に意欲を示しておりますので、今度こそは試験直前の10月くらい?に掲載できるように頑張って書いていきます。こちらもどうぞよろしくお願い申し上げます。