▼CVP分析という手法を紹介します。
今回のテーマは「CVP分析」。アニメファンならお馴染みの声優(character voice)プロデュースのことで、以前書いたこちらの記事について、声優としてだれが適切かを考察……するのではありません。
CVP分析における「CVP」とは「Cost-Volume-Profit」の略で、商品生産だとか工事における「原価」を固定費と変動費に分けて損益分岐点分析などを行う手法のことを指します。建設業経理士の試験では現在は1級の出題範囲になっていますが、そんなに難しくないうえにいろいろな業務に応用がきくので皆様覚えてね!ということで説明記事を書いていこうかと思っております。
なお説明を行う当ブログの中の人はこちらの記事にある通り、いちおう建設業経理士1級を持っておりますゆえたぶんだいじょうブイです(←読者を圧倒的に不安にさせる表現)。
▼CVP分析の公式
CVP分析、教科書によってはいろいろな公式が紹介されているかと思うのですが、当ブログで覚えてほしい公式は以下の2つです。
いきなり数式が出てきて面食らう方もいるかもしれませんが、CVP分析はこの2つの式を無理やりにでも覚えてしまってください。で、この2つの式を覚えると何ができるかといえば、「あとどれだけ売れば黒字か」が秒で出せるってことなんです。すごくね??
ざっくりした用語説明としては、変動費は「売れば売るほどかかる費用」、固定費は「売れても売れなくてもかかる費用」です。一方で「限界利益率」という言葉は耳慣れない言葉だと思いますが、定義を述べるならば「売上高から変動費を差し引いた利益が売上に占める割合」というもっともらしいようで、よくよく式を見ると見事にそのまんまの中身です。建設業経理士1級とか日商簿記2級以上の受検予定がない方は「よくわかんないけど『魔法(m=magic)の比率』」と覚えてOKです。
ちなみに建設業や製造業では、売上がプロジェクト単位となっていることもあり、上記のCVP分析の公式がそのまま使えませんが、「PQ(1つ当たり値段×数量)=売上高or完成工事高」と認識していただければいいかなと思います。
▼CVP分析公式の極私的覚え方紹介
じゃあこれをどうやって覚えるか、なのですが、①は「♪ぴ~ぴ~ぶい~、ぴ~ぴ~ぶい~」と歌う長渕剛さんの絵を思い浮かべてください。光GENJI・少年隊世代である当ブログの中の人と同世代の皆様はこれだけでメロディーが思い浮かぶと思うのですが、キンプリ・すの世代のナウなヤングの読者の皆様におかれましては、崇高な学びのためだと思って我慢して下記のYouTube動画をご覧いただきますようお願い申し上げる次第です。
さあほら、求めるべき「m」がだんだん「NAGABUCHI」の「n」に見えてきましたよ~!!もうぶっちゃけmだろうがnだろうが何だっていいです(笑)。
他方、②についてはわたしが簿記を勉強していたときに編み出した語呂合わせが適切でしょう。
皆様の脳内には、食いすぎで横になって動けないしずちゃんと、「ごめんなさいね~、セクシーすぎて~!!!」と客席にのたまう山ちゃんの2人がすでにモヤモヤ~ンと浮かんでいるはずです。その調子で覚えちゃいましょう!!!
▼CVP分析を実践してみよう
以上で準備はすべて整いました。CVP分析を実践してみるべく、簡単なモデルケースを設定してみましょう。ただしいきなり建設業でやるとマジで死ぬので、ここで舞台にするのは町のラーメン屋です。

そのうえで練習問題として、下記の設問を考えていきます。
1)この条件でペイするための損益分岐点の売上は1か月当たり何杯でしょう?
2)店主が自分の給料を上げるべく、月の固定費総額を54万円に改めるとします。そのうえでラーメンを1杯1200円に値上げしたときの損益分岐点売上は1か月当たり何杯でしょう?
この練習問題で「損益分岐点」という言葉が出てきました。損益分岐点は文字通り「これ以上売上があると利益が出て、反対に売上が下回ると損失が出る」というボーダーラインのことを指します。したがって最初に紹介した公式の中ではG=0とおくことになる、ということを覚えておきましょう。
そのうえで1)から見ていきます。
P=1,000 V=600 F=480,000となります。
mの値から求めていくと、 m=(1000-600)÷1000=0.4
なので 0.4×1000×Q=480,000 Q=1200杯
念のため検算して、売上と原価の合計(固定費+変動費)が正しいことを見ておきましょう。
売上=PQ=1000×1200=1200000円
原価合計=F+V=480000+600×1200=480000+720000=1200000円
完璧に一致してますよね。1日当たりの売上や客数を脳内計算するとなかなかにシビアな数字が出てきましたが、上記のレシピのラーメン屋なら非現実的な数字ではありません。
そして2)の方。
こちらはP=1,200、F=540,000と設定して新たにmを求めます。もちろん問われているのは損益分岐点ですのでG=0とおくのは変わりありません。
m=(1200-600)÷1200=0.5 となりますので、
0.5×1200×Q=540,000 Q=900杯
念のためこちらも検算してみましょう。
売上=PQ=1200×900=1080000円
原価合計=F+V=540000+600×900=540000+540000=1080000円
条件変えてもこちらも一致してます。値上げしたおかげでノルマクリア条件が圧倒的に楽になりました。値上げで若干お客さんの数は減るかもしれませんが、上記レシピのラーメン屋は中毒性がすさまじいので影響は少ないものと愚考します。
なんか小難しいこと聞かれていても、公式に当てはめて計算すればあっと言う間に答えが出るのが皆さんも分かると思います。CVP分析は簡単なんですよホントに。
……と簿記を勉強していた時代の自分はそう思っておりました。
▼実務に当てはめた瞬間に死ねる。
CVP分析、大学生が学園祭のために設営する屋台とかだったら、マジで有用なんですよね。固定費や変動費をきちんと設定してあげれば、簡単な計算で損益分岐点であるとか、Gの値をいろいろ設定することによって「目標とする利益額に必要な売上高」を簡単に求めることができる魔法のツールなのです。
そう、「固定費や変動費をきちんと設定してあげれば」の話です。
そのことが実務では、むちゃくちゃハードルが高い。
考えてみれば、一企業の運営にかかるコストって、会計上では「人件費」「原材料費」「販売手数料」「リース費」「地代家賃」みたいにどういう目的でお金が消費されたかによる区分が一般的です。すなわち「変動費」だとか「固定費」のような視点での分類は行いません。したがって、実務でCVP分析を使うためには、その前段階として、会社の各種コストが変動費と固定費のどちらかに当たるのかをいちいち再定義する必要があるというのがあります。これ地味にシンドいっす。
Webで調べる限りでは、下記のような区別が紹介されています。
変動費の例:原材料費・仕入原価:・販売手数料・外注費・運送費・現場消耗品費 など
固定費の例:地代家賃・人件費・減価償却費・水道光熱費・リース料・広告宣伝費・修繕費 など
ただし、上記の分類も万能というわけではありません。たとえば「人件費」一つとっても厳密にやろうとすれば固定費に分類していいのは固定給の部分だけで、残業代については変動費に加えるのが妥当でしょう。水道光熱費についても、事務所の水道光熱費だったら全額が固定費である一方で、製造現場の水道光熱費は、基本料金だけは固定費として、その他の金額については変動費に分類するのが、用語の定義から言って「筋」ではないかと思われます。
しかしこんなふうに厳密な再定義を行っていくのは、きりがないです。
会社のコストをすべて厳密に固変分解するなんて、底なしの泥沼に頭からダイブする行為に等しいです。
▼建設業・製造業におけるもう一つの問題点
固定費・変動費の厳密な分類が事実上不可能であるとともに、CVP分析を実際に行う上で建設業や製造業においてはもう一つ厄介な問題を抱えています。日商簿記2級の工業簿記などでもおなじみのボックス図を見てみましょう。

CVP分析によって「当期の変動費」として計算対象になるのは、上のボックス図では右上のエリア「当期完成」の部分にある変動費のみとなります。その他のエリア「前期棚卸」「当期仕入」「当期棚卸」のエリアに入っている変動費は全く考慮に入れません。そうなると製造業でいう「製造原価報告書」、建設業でいう「完成工事原価報告書」にある数字のみ考慮すればいい、ということになります。変動費については考え方はとてもシンプルです。
じゃあ固定費はどう考えるのか。前期の棚卸の物品を作っているときの固定費の扱いはどうなるの? 当期棚卸を作っているときの固定費は?? これを考えるとやはり泥沼化していきます。いちおう、簿記の教科書的には当期の固定費調整を行うための虎の巻的な手段があるにはあるのですが、それについては読者の皆様に「調べろ」と投げっ放して説明を放棄して……もとい、あたかもライオンが最愛の子ライオンを千尋の谷に突き落とすような扱いをすることで自らの学びにつなげていただければ幸いです。
要約すると、おれがめんどくさい。マジサーセン。
ただ、固定費については「期間固定費」という、会計期間全体で固定費を認識するという簡略化されたやり方もまあOKとされています。このあたりは読者の皆様がCVP分析にどれくらい時間をかけられるかによって判断していただければいいのかな、と個人的には思います。
▼「損益分岐点分析やってみて?」という依頼にどう対処するか
とまあここまでCVP分析の手法と課題をざっくり説明してきました。たぶんここまで読んでいただいた読者の方は、NAGABUCHIの歌とか南海キャンディーズの漫才のつかみを脳内再生しつつ、計算ができるようになってるんではないかと思います。
そして、こんなめんどくせえ事情なんて露知らずのシャチョサンから「損益分岐点ってどのくらいなのか計算できる?」と依頼されてしまった赤いフチの眼鏡がよく似合う経理の貴女!(←中の人がグッと来る女性像)、わたしからの最終的なアドバイスを最後に示します。
*変動費は当期全体の原価報告書の数字でいい!
*固定費は当期全体の販管費でいい!
*あとは要求されてるレベル感を察して適当に固定費と変動費の額を調整すればいい!(人件費とか)
「損益分岐点を計算してくれ」という要望は、簿記経験者の立場から言えばどのレベルの厳密さが必要なのか、それがわからないのです。そして依頼者はそのレベル感を言語化してくれません。
だったらこっちも雑に計算してやろうじゃありませんか。
蛇足ながら、当ブログ中の人は大学時代に
クイズ番組『アタック25』での優勝経験があるため、クイズ未経験者の方から「クイズ出して」とせがまれる経験が一度や二度ではありませんでした。そんなときわたしはきまってこんなクイズを出してお茶を濁してきました。
「パーに勝つのは何?」
損益分岐点計算もこの程度でいいんです。たぶん。
だから堂々と。雑にやっちゃえばいいんです。
もちろんわたしは責任取らないんですけれどね。アデュー!