はいはいはいはい、授業はじめま~す。つーか君ら単位関係ない授業は露骨にスルーするんだな。すげえな、今日ガラガラじゃん。んまあそれでも、わたしはこれだけでも来てくれて嬉しいよ。まあ人数少ないからわたしも好き勝手話すし、今日は単位認定とか関係ないからスマホは机の上でもまあいいや。暑いからまあみなさん水とかお茶とかジュース飲みつつ適度に給水しながら聞いて下さい。今日もよろしくね。
では始めましょう。つーかね、そもそもなんで「補講」やるのかって話からしましょう。
▼なぜ補講やるの?
「現場作業服史」の授業、この前テストやりました。シラバスとして準備していた部分は基本的にはすべてお話ししました。「作業服はその記号的意味を変えながら過去から現在まで続いてきて、これからも建設業という産業はなくなることがないから、作業服もまた続いていく」。まあコスパ・タイパ大好きな君らに短くまとめるとこんな感じになりますね。まあ本音を言うならば、3行でまとめろとかナメたこと言われたら「聞け/全部聞け/とにかく聞け」と答えるよね(筆者注:ブログなんで「読め/全部読め/とにかく読め」です)。学問にコスパもタイパもねえっつうのあほんだらぁ、みたいな。
ところがどっこい、授業を全部終えたあと、わたしは残尿感があってね。これを何とかしないとダメだな、って思ったんですよね。そう。「残・尿・感」。わたしがトシだから尿モレがあるとかノコギリヤシのサプリ(参考リンク→こちら)飲まなきゃとかそういうシモの話じゃないです。やり残したテーマ、話していないテーマが作業服の歴史にはまだあるんです。そういう理由で今回の講義をやります。
テーマは「BURTLE」、そして「ワークマン」、この2つのワークウェアブランドは果たして建設業版ファストファッションなのか? この問いに答えることこそがこの補講の主題になります。
▼ファストファッションの定義
で、そもそも「ファストファッション」って何よ?って話から入りましょうか。みなさんもショッピングモールで買っているUNIQLO、ZARA、H&M、GAPなんかのブランド。それから君らの父ちゃん母ちゃん爺ちゃん婆ちゃんがよく買ってるしまむら。ああいうのがファストファッションです。はい、しゅ~りょ~!
……ってなるわけないんですよね。これらは確かにファストファッションって呼ばれるんですが、その名前を挙げただけでは単なる「例示」なのであって、定義の話にはなりません。もっと抽象化した、科学で言う「法則」みたいな統一した定義付けを行う必要があります。ということで、ファストファッションの定義を行うならばこんな感じになります。
*最新のトレンドを素早く取り入れていること。*徹底的に低価格の衣料品を短期間に大量生産・販売すること。
代表的な要素はこの2点に集約されます。もちろんここから発展させたいろいろな定義付けを行うことも可能で、たとえば「企画→製造→販売」というサプライチェーンが高速であることとか、在庫を基本的には持たず売り切り型の経営を行うことなどの特徴などはよく言われることです。
さて、この説明で気づいている方がいたら、あなたは鋭い。そう、「ファストファッション」ってのはアパレル業界における経営面の特徴である、というのが実際のところです。だってさ、商品のそのものの話ほとんどしてないよね? じゃあさっき言ったブランドに共通する、商品そのものの特徴・定義って何でしょうか。そのことを説明する概念が「リアルクローズ(Real Clothes)」です。
▼リアルクローズとはなにか。
リアル・クローズ、直訳すれば「ホントの服」ってなりますね。そしてこの「リアルクローズ」の反対語になるのが「オート・クチュール(Haute Couture)」だとか「プレタポルテ(pret-a-porter)」という言葉です。英語の言葉の反対語がフランス語ってどういうことやねん!オトナはウソツキ!とお叱りを受けるかもしれないですが、まあそれはそういうものだと思って諦めることが皆さんのこれからの人生で何度も必要になって来ると思いますので、本日はその練習だと思ってください。ゴメンねゴメンね~。
オートクチュールは「高級仕立服」を意味する、世界で一点ものの服のことを指します。顧客の体型を厳密に採寸し、最高級の生地を使って熟練の職人が膨大な時間をかけて仕立てる服。またプレタポルテは「高級既製服」を意味する言葉で、SサイズだとかMサイズなんかの規格に従って生産される服のことを言いますが、ファッション業界ではパリコレなどのファッションショーで発表される服について指す言葉としても用いられています。
で、「リアルクローズ」はそれらの言葉の反対語ですから、意味合いが皆さんにももう想像できるでしょう。大量生産され、現実的な価格帯で販売される、日常で着る服。こんな意味合いになります。だから、先程挙げたUNIQLOやZARAなんかは「ファストファッションであり、なおかつリアルクローズである」という理解をしておいてください。とりあえずの定義はこんなもんですね。
▼BURTLEはどんな作業服を販売しているのか。
第3回の授業で扱ったBURTLEの話をもう少し補足していきます。創業は1958年、当時の社名は「クロカメ被服」といいまして創業当時から作業服販売を行っていた老舗なんです。「BURTLE」への社名変更は2011年で、この社名は「クロカメ」の「クロ(Black)」と「カメ(Turtle)」の合成語、さらに「戦い続ける」という意味の「Battle」の意味を加えた造語です。前回触れたように、ミリタリー感だったりストリート感を全面に押し出した作業服を企画・販売することで売上を急速に伸ばしているメーカーですが、具体的な商品イメージについてはWebカタログ(参考リンク→こちら)を見てみてくださいね。
で、同社は会社そのもの、そして製品である作業服についてどうあるべきかをHP上で公開しています。ちょっと引用してみましょう。
原点:常に変化を恐れず未来に挑戦し続ける。独自の世界観をもつワークウェアアパレルのリーディングカンパニーを目指す。
出典: 株式会社バートル ブランドページ「CONCEPT」
信念:すべては仕事のための機能服を追求すること。高品質かつ経済的な価格を実現すること。それこそがリアルワークウェアブランドとしての信念。
使命:優れた商品を通じてお客様に「本物」と「安心」と「満足」を提供し続けていく良きパートナーとしてあり続けること。
これを読むと、同社が提供している作業服は「リアルクローズ」たらんとしている。そう読み取ることができます。実際、同社の作業服はデザインだけではなく、現場の声を活かすことで機能面でも非常に優れたウェアとなっています。見た目の通り作業服らしからぬタイトなデザインであるにも関わらず、素材のストレッチ性能が高いことで非常に動きやすいですし、そもそもの素材自体がプロの現場仕事に耐えうるレベルで丈夫なんですよね。
▼個人向け作業服ブランドとしてのワークマン
さて、近年売上を急速に伸ばしている企業として取り上げられることも多い「ワークマン」についても紹介しておきましょう。創業は1980年、創業の地は群馬県伊勢崎市で、もともとは東日本で展開するスーパーマーケットチェーン「ベイシア」(当時の名称は「いせや」)の一部門でした。皆さんベイシアとか言われてもピンと来ないかもしれませんが、現在のグループ会社のなかにはホームセンターのCAINZ(カインズ)や買収時に話題となったHANDS(旧東急ハンズ)が含まれていて、実は身近なところにも関係するお店があちこちにあるんです。
この出自から見ても分かる通り、実はワークマンは作業服のブランドではあるのですが、バートルや自重堂といった福山の作業服メーカーがBtoBの企業向けの経営戦略を採用していたのとは異なり、当初から個人向け、BtoCの作業服製造販売に特化していた、というのが特徴的です。
近年では「ワークマン女子」なんて言葉が聞かれるように、日常の買い物だったり、アウトドアシーンでワークマンの商品を着用する人が多く見られるようになりましたが、その背景として、プロの過酷な現場に耐えうる防水性能や耐久性といった機能面はそのままに、アウトドア向けやスポーツ向け、さらには女性向けに特化した製品セグメントを次々と開発・販売していることが好調の要因となっていますね。まあそういう経営戦略を取ることで現場の職人さんからは「ワークマンは魂を売ってしまった」みたいに批判されたこともあるんですが、最近また原点回帰してWORKMAN Proっていう職人向け店舗を拡大しています。
そういう事実を踏まえると、ワークマンもまた「リアルクローズ」であろうとしている、という事実が見えてきます。
BURTLEとワークマンはファストファッションなのでしょうか?
商品の開発から販売に至るサイクルはたしかに早いのかもしれません。ただしこれら2つのブランドをファストファッションかどうかを断ずるにはまだ材料が不足しています。つまり、近年のファストファッションに対する「批判」を考慮する必要があるとわたしは考えます。
▼ファストファッションを巡る批判的言説
ファストファッションは以下の3つの点において批判されます。
(1) 搾取
低価格であることを実現するために、生産から販売まであらゆる場面で低賃金労働が横行していること。
(2) 環境負荷
消費者が必要ではない衣服を大量購入した挙句に大量廃棄を行うことで、ゴミを増やし環境に負荷をかけていること。
(3) 没個性
消費者の入手できる服が一様な服であり、服を着ることでの自分らしさの追求ができないにも関わらず、その状態に安住してしまうこと。
上記のうち、(2)と(3)は主に消費者の問題ということになりますが、企業の経営という面で(1)の「搾取」については補足説明が必要でしょう。もっともよく言われるのが生産現場における搾取です。
2013年にバングラデシュのラナプラザというところで起きたビル崩落事故が特に有名です。グッチやプラダのほか数多くのファストファッションの商品の縫製を行っていた工場がこのビルに入居しており、1100人以上の死者が出たことが世界中で報道されました。この事故の背景には、ビルにすでに亀裂が入っており出社を拒否する労働者が続出したにも関わらず、工場のオーナーが安全よりも納期や売上を優先して従業員を半ば脅迫する形で出社を強制したという事実があります。
この事故がきっかけとなり、グローバルなアパレル企業ではサプライチェーン管理や労働環境改善の重要性が見直されるようになりました。
もちろんこの「搾取」ってなにも生産現場だけの話ではありません。わが国でも、アパレルの店員さんが売れ残った商品を自ら買い取ったり、制服として自社の商品を買うような行為が問題視されたことがあります。これなんかは販売現場における「搾取」です。ただしこれも労働基準法に反するうえに昨今のSNSの普及で「ブラック企業として暴露される」リスクを抱えることになるため、大手アパレルほどそのような行為を禁止する旨、明文化していたりします。
ここまで見てきたように、このような批判は、ファストファッションのビジネスモデルの構造上、起こるべくして起こるものと言えなくもありません。
▼作業服におけるファストファッション的な消費行動
ここで私はひとつの疑問にぶつかります。
BURTLEもワークマンも、自らをファストファッションだとは定義していません。まあそりゃ「うちの製品は使い捨てクオリティです!」とか「生産現場の人たちが低賃金だろうと安い販売価格で商品提供しているから別にいいじゃん!」みたいなことを企業が自ら宣言するということはありえませんよね。むしろBURTLEもワークマンも、現場で使われることを前提としたリアルワークウェアであり、機能性や耐久性を重視した製品づくりを行っています。その事実から判断するに、これらのブランドは「リアルクローズ」ではあるけど、「ファストファッション」ではない。
しかし現場を見ていると、別の変化が起きているようにも感じます。
かつての作業服は、破れるまで着るものでした。もちろん破れても修繕を加えて着続けるのも一般的でした。ところが現在では、「新しいモデルが出たから買い替える」「デザインが気に入ったから買う」という消費行動が珍しいものではなくなっています。そもそもBURTLEもワークマンも耐久性についてはお墨付きで、数年の着用に耐えうる品質を誇っているにも関わらず、です。その消費のされ方は、あたかもファストファッション的です。
▼消費者マインドの変化
現代の作業服は単なる労働の道具ではありません。前回までの講義で見てきたように、作業服は社会的な記号としての意味を強く持つようになりました。「どこの会社で働いているのか」「どんな職種なのか」「どんな価値観を持っているのか」 そうした情報を作業服は語るようになっています。
フランスの思想家ジャン・ボードリヤールは、人はモノそのものだけではなく、そのモノが持つ意味やイメージを消費していると指摘しました。もしこの指摘が正しいならば、私たちは作業服そのものだけではなく、作業服が持つ「意味」もまた消費していることになります。ええっと、「意味を消費する」という表現が分かりにくいかもしれませんね。噛み砕いて説明するなら、「わたしたちはモノが持つイメージだったりステータスを買っている」となるでしょうか。もっと具体的に言うなら、ブランドロゴ入りの服におけるロゴとかそうですよね。SNS映えなんかの自己アピールなんかもそう。モノを所有することで自分が思う理想のキャラクターになる、みたいな意味合いに取ってください。
ボードリヤールの議論を借りるならば、わが国でも1970~80年代頃から服は単なる道具ではなく、自分らしさを表現する記号としての意味を強く持つようになったと考えられます。そしてバブル崩壊後のデフレ経済の進行とともに、服をより安価に、短いサイクルで買い替える消費行動が広がっていきます。こういった状況のもと、2000年代以降のファストファッションのブームが起きたわけです。だからその時その時のトレンドに従って販売されるファストファッションの服のなかから、消費者は「見られたい自分のイメージ」を想定して服を選んで買う、という消費行動が定着した。こういう感じで理解してくださいね。
補足すると、ファストファッションが定着した背景には、可処分所得が減少する一方でスマートフォンなど通信費への支出が多くなったことにより、服にかけられる個々人のお金が減っている、という指摘もあります。そんななかで、「限られた予算で、いかにセンス良く見せるか」がスマートな消費支出のあり方として支持されるようになります。このへんは皆さんも「わかりみが深い」と感じられると思います。いつだったか、麻雀のおじさんトッププロの私服をチェックするYouTube動画見たことあって、そのおじさん麻雀プロが「単に高い服組み合わせて着てるだけ」って評されてたんだけど、これってそういう「スマートな消費行動」が消費者に定着している一つの例と言えるよね?
▼このマインドは作業服へ波及する。
こんな消費者マインドの変化が、タイムラグを経て作業服にもいつしか適用されるようになった、と考えるのは不自然ではないと思います。つまりは作業服そのものの「見え方」「見られ方」が変化し、作業服もまた消耗品として消費者に認知されるようになったということです。
そう、さっきも言いましたが、かつての作業服は「道具」でした。汚れたら洗うし、破れれば直して着る。そしてどうしようもないほどぼろぼろになっちゃったら買い替える。それだけの存在です。しかし現在では、作業服は機能だけではなく、デザインやブランドイメージによって選ばれる商品になりました。作業服も実は「この年限定のカラーリング」と銘打って発売されることがあって毎年即完売、なんて状況がここ数年存在しています。具体的に言えば、そういった流行を取り入れた「BURTLEを着ること」だったり「ワークマンの商品を選ぶこと」という行為自体が、自分自身を表現する選択になりつつあります。たとえば1万円するブランド服を買うよりも、ストリート感溢れる5000円のBURTLEを普段着兼仕事着にするって感覚。これは不自然じゃないし、「スマートな消費をする自分」を演出する材料になりうる。そう考えることができると思います。
▼結論
BURTLEとワークマンはファストファッションなのでしょうか。
わたしの答えは「否」です。ただし、それは作業服の世界にファストファッション的な要素が存在しないという意味ではありません。少なくとも両社は、現場で使用されることを前提とした高機能なリアルクローズを提供しています。タフに着回せて丈夫でありつつも、使用されるシーンを想定した高品質な商品、というかものづくりをしているのは間違いない事実です。
しかし一方で、消費者の側にはファストファッション的な消費行動が浸透し、さらに言えばわれわれはそれに慣れてしまった。作業服そのものがファストファッションになったのではなく、作業服を消費するわたしたちの意識が代わり、さらに言えばその背景として、作業服を含めたファッション全般をわたしたちが選ぶ基準に変化が起きました。だからわたしは、BURTLEやワークマンを建設業版ファストファッションと呼ぶことには違和感があるのです。
それでね、ファストファッション的な消費行動がいいのか、悪いのかっていう議論をしているわけではない、ということだけは理解しておいてください。これは別に善悪で判断すべき問題じゃないんです。ただ単に、現代の大衆が支持している消費行動こそが現代における最適解なのです。それはそういう消費行動がいちばん合理的だからです。
作業服は昔からずっと、そして今もなお、労働のための服であることに変わりはありません。建設業は死なない、ってこの前の最後の講義のときに言ったよね? だからそれに付随する作業服も、これからも続いていきます。ただしその上には、現代では「かっこいい」だとか「自分らしい」といった新しい意味が何層にも積み重なっているのです。それが現代の作業服なのだと、私は考えています。
ということで、補講で話したいことも全部やったよ。今まで聞いてくれた皆さんありがとね。例によって参考文献リストのプリント(PDFファイル→こちら)を配っておくので、よかったらがんばってみんな読んでみてください。つーかあれだ、ガクセイジダイっつーのは好きなだけ好きな本を読んでいいし、読んでても誰にも怒られない時間なんだから貴重に使ってくれよ! わたしは今でもむちゃくちゃ後悔してるもん。
ということで、今度こそこの言葉を皆さんに投げかけて授業を終わります。
じゃあなお前ら。
今度こそ、また来世~~~~!!!


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